『起業家』
2013年 株式会社幻冬舎発行
このブログの2021年11月6日にアップした、
『渋谷で働く社長の告白』
が大変面白かったので、もちろん次の本も読むでしょうと読んだ本。
この本をおすすめしたい人
- 『渋谷ではたらく社長んの告白』を読んだ人
- 起業したい人
- IT関連の仕事に就きたい人
- 終身雇用の日本型企業をつくり社員が安心して働く会社を作りたい人
- サイバーエージェントがどのようにして今に至ったかを知りたい人
作者紹介
藤田晋(ふじた・すすむ)
株式会社サイバーエージェント代表取締役社長。
1973年福井県生まれ。
97年青山学院大学卒業後、人材会社の株式会社インテリジェンスに入社。
翌98年に株式会社サイバーエージェントを設立、代表取締役社長に就任。2000年に史上最年少(当時)の26歳で東証マザーズ上場。
著書に『渋谷ではたらく社長の告白』『藤田晋の成長論』
(以下略)
(『起業家』より引用)
この本のおすすめポイント
- 華やかな時代の寵児に見える藤田晋さんも、いくつかの苦しい時期を乗り越えてきたのがわかる
- 起業につきものの苦しさと大変さをその時の心情までオープンに語らている
- その時表に出なかった買収の危機にあった時のことが詳しく書いてある
- 新卒で取った社員を育てていく日本型企業に方針を転換してうまく機能しているところが目から鱗が落ちる
- 起業の苦しさだけではなく充実感や熱量も伝わってくるので、起業したい人はエネルギーがわいてくるかも
心に残った点・役に立った点
買収の危機
2001年5月、ネットバブル崩壊後株価低迷に喘いでいたサイバーエージェント。
当時M&Aコンサルティング社長の村上世彰氏がサイバーエージェントの株を10%買い占めていたそうだ。
と、書くと
「あー、村上氏が物言う株主とか言って注目されていた時期ねー。」
とすぐ思い浮かぶ人も多いだろう。
「村上ファンド」という言葉でだいぶ注目されていましたよね。
2001年に村上氏はサイバーエージェントの第4位の大株主になっていたそうだ。
そして村上氏から、
「サイバーエージェントが上場時に調達した225億円を、1度株主に返したらどうでしょう。つまり一度会社を清算してやり直したらどうか、ということです」
と通達されたのです。
そこからは、悪夢のような数か月でした。
その頃、サイバーエージェントが保有している現金よりも市場の株価が低かったために、現金目当てで買収し、赤字事業を整理すれば巨額の利益が出るような状況にあったのです。
(中略)
しかし、この初夏から秋までの期間、私の持つ潜在株式の契約上の問題と、村上氏のアドバイスに従って自分の株を社員に配ったことで、私の株式保有比率は下がっていました。
気がつけば、どこかの大株主がその気になれば、サイバーエージェントを子会社化することが可能だったのです。
『起業家』第1章 暗闇の中で より引用
『渋谷ではたらく社長の告白』に、この一連の買収騒動のことは書かれているが、本が発売されるまで、サイバーエージェントの社員はそんな危機が迫っていたことを知らなかったそうだ。
その後、買収の危機が過ぎ去ったころ、
「和解の会」と称した食事会が開かれたそうだ。
メンバーは、村上世彰氏、熊谷正寿社長(GMOインターネット代表取締役会長兼社長)、宇野康秀社長(USENグループ会長)、三木谷浩史社長(楽天代表取締役会長兼社長)、代理人の井上智治氏(井上ビジネスコンサルタンツ代表取締役)、藤田晋氏の6名。
村上氏が仕掛けた買収騒動を、和解しようと呼びかけたのは村上氏だったそう。
場所は、2001年にオープンし話題を集めていた、
渋谷のセルリアンタワー東急ホテルの地下2階、能楽堂が見渡せる一日一組しか予約を取らないお座敷。
このあたりのくだりはとても面白く興味深いので、是非本でどうぞ。
長く働く人を推奨する会社に
2003年、1泊2日で役員がひたすら話し合う機会のために行った合宿。
(リクルート創業者の江副氏の著書『かもめが翔んだ日』を参考に、豪華な旅館かホテルを予約してほしかったらしいが、実際は寂れた老人ホームのような宿だったそう)
この合宿で、その後の経営に大きく影響を与えたのは
「長く働く人を推奨する会社にしよう」
という考え方だったそう。
これが、サイバーエージェントの企業文化の土台になったのだそうだ。
それまでのサイバーエージェントは、社員がよく辞める会社だったそう。
実力主義や成果主義がほとんどのIT業界では、できない人が会社を去るのが当たり前のこととされているわけなので、これは目から鱗が落ちる思いがした。
その風潮に疑問を呈したのが、創業からずっと一緒にやってきた日高祐介(現・副社長)でした。
「やっぱり新卒で採った社員は優秀だよね」
と言い出したのです。
「新卒は、この会社が最初なんだから、サイバーのカルチャーを身に付けやすい」
「たとえ景気が悪くなっても一生懸命に頑張る社員が多い」
そんな発言でした。
私たちは皆、その言葉を待ち望んでいたのかも知れません。
『起業家』第2章 土台作り より引用
私は、元某大手の関連会社だったところで働いているが、
ものすごい成果主義で、6か月で見切りをつけられる人も多い。
だから社員の入れ替わりがとてもはげしく、
名前も覚えていない(覚えられていない)人も多い。
じっくり成果を出すタイプにはとてもきつい会社なので、
理不尽さを感じる部分も多い。
その分、ものすごい給料をもらう人もいるが、それはほんの一部。
会社の入れ替わりが激しいということは、
それだけ会社のコストもかかるということ(これが馬鹿にならないぐらいのコスト)
雰囲気も殺伐としてくるし。
だから、サイバーエージェントのこの決断は、
本当に素晴らしいと思う。
それで思い出したのは、
ブラジルのセムコ社。
従業員3,000人のコングロマリット企業だが、
組織図なし、起業戦略もなく、就業規則、業務標準などのルールもない。
仕事は社員が自分で決め、管理されないという会社。
とにかく、社員が働くのが楽しく
会社にくるのが楽しみという会社なのだ。
人間は、安心して働ける状況の方がパフォーマンスがあがるという研究結果も読んだことがあるが、競争がパフォーマンスをあげると思っていた私にとってはかなりの衝撃だった。
セムコ社の場合は、組織図も無く、ルールが殆どないので
サイバーエージェントとはぜんぜん違う形態だが、
(サイバーエージェントは行動規範を張り出したり、価値観「maxims」という小冊子を配ったりしているし)
仕事をする人を一人の自立した大人として扱っている、
社員を大切にするという会社のメッセージという点では一緒かも。
今の時代に福利厚生に力を入れる会社は驚かれるだろうなぁと思う。
でも、人の入れ替わりが多いのはとてもコストがかかるのだ。
引き継ぎするために、一時的に辞める人と新しい人が一緒に働くので、給料も2倍かかるわけだし。
日本型と言っても、経済成長期を前提にしたあり方はもう通用しない。
時代に即した日本的経営モデル。
印象的なのは、
目標を達成した部署には飲み代を支給、翌日の半休もセット。
「達成した時くらい、心ゆくまでゆっくり飲んでくれ」という意味だそうだ。
これは、いいなぁー。
会社の飲み会って、若い時は嫌なものだったりする。
少なくとも、新卒の頃は大嫌いだった。
だが、いつの間にかとても楽しめるようになった。
サイバーエージェントでは、飲み会が頻繁に行われるようになって、ギスギスした社内が円滑に動くようになったそうだ。
飲み会って面倒かもしれないが、
お酒が入ると気分が和らいで、いつも話せないことを話せるし、
違う部分も見たり見せれたりする。
特に日本人はシャイで気を使うから、
お酒が入らないとどこか緊張感を持って人と接したりしているし。
飲み会で関係が和むことも本当にたくさんある。
面白いのは、
若い人が多いサイバーエージェントがそれをやって、
結果が出ているところ。
追い風
第3章 追い風では、
ホリエモンが、時代の波に乗って一気に有名になっていく様子が書かれている。
古くから一緒に仕事をやってきた友人のホリエモンが、
時代の寵児になっていく様子が書かれていて面白い。
印象的なのは、
「名乗りを上げるのはただ(無料)。これは発見だったよ」
というホリエモンの言葉。
確かに。
プロ野球参入はできなかったが、
これでホリエモンは一気に名が知れたものね。
ここから、逮捕後まで
友人として見たホリエモンが一部書かれていて、
二人のスタンスの違いなども面白い。
サイバーエージェントで面白い仕事しているなぁと
思うのは、将棋や麻雀のオリジナリティあふれる番組をやっているところ。
スカパー!で観ていたような番組が
こうやって見られるようになったのも感慨深い。
長文になってしまった。
おすすめの本です。