『LIFE SPAN 老いなき世界』
デビッド・A・シンクレア/マシュー・D・ラプラント著 梶山あゆみ[訳]
東洋経済新報社 2020年9月発行
この本は、とても話題になったし、
本屋でも平積みになっていたので知っている人が多いだろう。
本の厚さにひるむ人が多いかもしれないが、
486ページから491ページまでは謝辞、
最後から1ページ~98ページは索引、用語集、登場人物紹介、原註だ。
臆せず読んで見て欲しい。
最初は難しく感じるかもしれないが、途中から加速して面白く興味深く読みすすめるようになりますよ。
この本をおすすめしたい人
- 老化と老化に対する研究結果を知りたい人
- 老化に対して今できることを知りたい人
- 根拠のない老化対策ではなく科学的根拠の有る老化対策について読みたい人
- 科学者による未来予想について知りたい人
- 老化に対する過度な恐怖心をなくしたい人
作者紹介
デビッド・A・シンクレア(DAVID A. Sinclair)
世界的に有名な科学者、起業家。
老化の原因と若返りの方法に関する研究で知られる。
とくに、サーチュイン遺伝子、レスベラトール、NADの前駆体など、老化を遅らせる遺伝子や低分子の研究で注目を浴びている。
ハーバード大学医学大学院で、遺伝学の教授として終身在職権を得ており、同大学院のブラヴァトニク研究所に所属している。
ほかにも、ハーバード大学ポール・F・グレン老化生物学研究センターの共同所長、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア・シドニー)の兼任教授および老化研究室責任者、ならびにシドニー大学名誉教授を務める。
その研究は、新聞・雑誌、ポッドキャスト、テレビ、書籍などで頻繁に取り上げられている。
(中略)
これまでに170本あまりの科学論文を発表し、50件あまりの特許を共同発明。
また、老化、ワクチン、糖尿病、生殖能力、がん、生物兵器防衛などの分野で、14社のバイオテクノロジー企業を共同創業している。
科学誌『エイジング』の共同主幹であり、国防関係機関やNASAとも共同研究を行うほか、これまでに35の賞や栄誉を授与されている。その主なものには「オーストラリアを代表する45歳未満の科学者」の1人に選出、オーストラリア医学研究賞受賞、アメリカ国立衛生研究所長官パイオニア賞受賞、『タイム』誌による「世界で最も影響力のある100人」の1人に選出(2014年)、「医療におけるトップ50人」の1人に選出(2018年)、などがある。
2018年、医療と国家安全保障に関する研究が認められ、オーストラリア勲章を受章。
マシュー・D・ラプラント(Matthew D. LaPlante)
ユタ州立大学で報道記事ライティングを専門とする准教授。ジャーナリスト、ラジオ番組司会者、作家、共著者としても活躍。主な活動については、
www.madlaplante.comを参照のこと。
梶山あゆみ(かじやま あゆみ)
主な訳書にヒッグス『人類の意識を変えた20世紀』、ウィンチェスター『精密への果てなき道』、ジョンソン/ギャラガー『10億分の1を乗り越えた少年と科学者たち』
(以下略)
『LIFE SPAN 老いなき世界』より引用
この本のおすすめポイント
- 広告やネット上の怪しげなアンチエイジングに惑わされなくなる(と思う)
- 科学的な視点から老化を考えることができる
- 老化に対する研究の過去・現在・未来が時系列的に語られている
- ”老化は病気”という新しい視点を得ることができる
- 未来は健康寿命が伸びるであろうことを知り、希望を感じることができる
心に残った点・役に立った点
老化を寄せ付けない、あるいはしんじがたいほど長寿な生き物たち
ヒッコリーマツは、ヒトと同じ真核生物。遺伝子の半分は私達のものとよくにているそうだ。
だが、このマツは老化しない(年をとらないというわけではない)
樹齢23~4713年(!)のヒッコリーマツを科学者が調査した時、細胞老化の違いがなかった。
私が心底驚いたのは、次のクラゲの話。
アメリカ西海岸に生息するミズクラゲ、体長1センチほどのチチュウカイベニクラゲの2種は、「不老不死のクラゲ」と呼ばれているそうだ。
「不老不死のクラゲ」をすり潰して細胞を1個ずつばらばらにしても、やがてその細胞が集まっていって完全な固体に戻る。
なんと、再生すると同時に、老化の時計をリセットしているものと考えられているそうだ。
これには、びっくり!
まるでSFの世界ではないか!
(でも、これは人間には無理な話。だってすり潰されないと再生できないなんて、、、)
でも、既にこういった生物がいる以上、老化や再生についてまだまだ未知のものがあって、研究の余地があるということなんだなぁと。
健康長寿のために誰ものが取り組めること
食べる量を減らせ
25年にわたって老化を研究し、何千本という科学論文を読んできた著者がアドバイスするのが「食事の量や回数を減らせ」
今すぐ実行できて、確実な方法との事。
要するに食物が足りない時の遺伝子の反応を再現するのが、
健康法につながるとのこと。
間欠的断食
食事の量は普段とは変えないものの、食事を抜く期間を周期的に差し挟む方法。
昔は、食物を断つことが身体を「休める」と信じられていたが、
現在は全く正反対の見方がされており、
身体が絶食のストレスに晒されることによりサーチュインのプログラムを働かせると考えられているそうだ。
アミノ酸を制限する
肉類には9つの必須アミノ酸がすべて含まれているが、相当な代償を伴うそうだ。
動物性に偏った食生活を送っていると、心血管系疾患による死亡率とがんの発症率が高まることは研究で報告されており、特に加工した赤身肉はいけない(ホットドッグ、ソーセージ、ハム、ベーコン)。
この加工肉については何百という研究で、結腸・直腸がん、膵臓がん、前立腺がんとの関連が確認されているそうだ。
生きる上でアミノ酸は必要だが、
たいていの人は少ない量でも間違いなく耐えられるそうだ。
運動をする人ほどテロメアが長い
運動をすることによって、NADの濃度が上昇し、それがサバイバルネットワークを作動させる。そのおかげでエネルギーの産生量が上がり、筋肉は酸素を運ぶ毛細血管をさらに増やすようになるそうだ。
AMPK、mTOR、サーチュインといった長寿関連の物質はカロリー摂取量にかかわらず運動によって正しい方向に調節され、新しい血管をつくらせ、心臓や肺をを健康にし、身体を丈夫にし、テロメアを長くする。
寒さに身を晒して長寿遺伝子を働かせる
褐色脂肪は「寒さ」でも活性化されるそうだ。
(低体温症や凍傷になるまでやってはダメ)
鳥肌が立つ、歯がカチカチ鳴る、腕が震えるのは危険なサインではなく、
こうした状態をある程度経験すれば、長寿遺伝子は必要なストレスを受け取って健康的な脂肪を増やすそうだ。
面白いのは、サウナなどの高温は低音ほど効果ははっきりしていないそう。
人間は恒温動物なので体内の酵素は大きな温度変化に耐えられるようにはできていない。深部体温をあげさえすれば長生きするというわけにはいかないとの事。
タバコ、有害な化学物質、放射線は老化を早める
亜硝酸ナトリウムで処理された食品(一部のビール、塩漬けや燻製などの保存処理をした肉のほとんど、特に加熱したベーコン)は、N-ニトロソ化合物が生成されることは半世紀前に判明していて、強力な発がん性を持つことが確認されてきたが、ニトロソ化合物はがんだけではなく、DNAを切断する力があり、サーチュインをもっと酷使してしまうそう。
著者は、砂糖、パン、パスタの摂取量をできるだけ少なくしているとのこと(デザートは40歳でやめた)
一日のうちどれか一食を抜くか、ごく少量に抑えるようにしている。
植物をたくさん摂取し、ほかの哺乳類を口にするのは避けるようにしている。運動したときには肉を食べる。
タバコは吸わず、電子レンジにかけたプラスチックや、過度な紫外線、レントゲンやCTスキャンを避けるようにしている。
日中と就寝時は、涼しい場所にいるようにしている。
(以下略)
などなどを気をつけているそうだけど、
私も電子レンジにかけたプラスチックは避けているなぁ、そういえば(要するにコンビニのお弁当や冷凍食品は食べないようにしている)
著者は、特定のサプリメントを推奨することはないそうなので、誤解なきよう。
そして、この本の主題は、こういった健康法をアドバイスという小さなものではなく、これまでの人類の老化に対する研究や、現在、これからの未来についての事までも書かれているので、興味を持った方は実際に読んでみて、そして健康のために取り入れたいことがあれば自分なりに取り入れて見れば良いと思う。
私達はどこへいくのか
この本の第3部 私達はどこへ行くのか(未来)で、
とても印象的なのは、高齢者が活躍できる社会へという部分だ。
2014年のカリフォルニア州サンディエゴのマラソン大会に91歳の女性、ハリエット・トンプソンがランナーとして出場して、最高齢情勢の記録を塗り替えたそうだ。
彼女は、走ることで白血病リンパ腫協会向けに10万ドル以上の寄付金を集めたそうだ。
なんとびっくり!
だが、将来的には同じことが暮らしのあらゆる場面で起きると著者はこの本で語っている。
教室では90代の教師が、新しい仕事を始めようとする70代の生徒を指導する。
高齢の夫婦が、孫の孫と取っ組み合って遊ぶ。
経験が物を言う職場では、高齢の労働者が敬われ雇われる。
過ごした時間がネックではなくなり、高齢者は厄介者ではなくなる。
高齢者に対する誤った固定観念も健康な寿命を伸ばすことができれば、無くすことができるということ。
高齢の労働者が労働市場を圧迫するというのは、誤った考えと著者は力説しているのだ。
定年退職する人がいなければ、若い労働者が仕事からあぶれるのではない。
国家が新しい発想を取り入れたり、人的資本を活用したりするのを怠るから国家が停滞すると。
60~60歳など定年年齢の低い国の方がGDPが少ない。
その一方、
オランダ、スウェーデン、イギリス、ノルウェーなどの定年年齢が66~68歳の国のほうがGDPが高い。
要するに、いつまでも働き続けられれば経済のあり方自体が変わるということ。
(高齢になって働けなくなったにお金がなくなる恐怖からタンス貯金など、しまい込まれた資金は数兆ドルにのぼる)
老化を遅らせることによる経済効果は、医療費の削減、ボランティアや後進の指導、奉仕活動などで社会に利益も還元できる。
(経済学者のゴールドマンの推計によると、老化を遅らせることによる経済効果はアメリカだけでも50年間で7兆ドルを超える)
著者の父親は80歳だが、
働くことが恋しくなって、シドニー大学の論理委員会の一員として、研究を審査・承認する役についたそうだ。
充実した暮らしをし、世界を旅し、健康状態を維持し、未来に明るい希望を抱いているのだそうだ。
巷には、いろんな健康法が溢れている。
テレビで紹介される健康法を見るのは楽しかもしれないが、
そこにはスポンサーという背景があることを忘れて盲信する人もいる。
そんな目先だけの健康法や、一時の流行りの健康法にながされずとも、
きちんと科学的に研究されたものを自分なりに取り入れれば良いだと思う。
そして何より、この本の素晴らしい点は、
「老化は病気」と定義しているところだ。
この点で、一般的な固定観念を思いっきりはずしてくれる。
病気なら、いつかは治せる時代がくるという明るい気持ちにさせてくれる。
とてもおすすめです!
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