辛い時にはいつも本があった

辛い時にはいつも本があった

辛い時、苦しい時、悲しい時に書店に行くといつもその時の気持ちにぴったりの本との出会いがありました。

【おすすめ本43】『母を捨てるということ』 おおたわ史絵 ※大学病院勤務等を経てプリズンドクターへ

『母を捨てるということ』 おおたわ史絵 朝日新聞出版 2020年9月発行

 

この本の作者、おおたわ史絵さんはTVで拝見して存じ上げていた。

 

そのTV番組では、歯医者である夫がゴミ出しやらなにやらまでして、

おおたわさんは犬の事ばかりしているという作りの番組だった。

 

テレビの制作側が、

「女医ってこうやって旦那のことを尻にしくんですよ~」

みたいな方向に持っていきたいのかなぁーと薄っすら感じるような作り。

 

おおたわさんは、とても表情豊かという感じの方ではないので、

余計にそういう印象を持ってしまう人もいるんだろうなぁと。

 

そんな方は、この本を是非読んでみてほしい。

 

この本の大体の内容は知っていて読んだが、それでも衝撃を受けたし、

母という存在について共感する部分も多く、依存症という事に対して考えることも多かったとともに、おおたわさんの志も感じて本当に読んで良かったと思った本なので。

 

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この本をおすすめしたい人

  • 依存症の事をもっと深く知り理解したい人
  • 母との関係に葛藤を抱えている人、抱えていた人
  • 親の事をもう一度考えてみたい人
  • 自分のアイディンティティを親を通して考えてみたい人
  • 処方箋薬の依存症についてもっと知りたい人

 

作者紹介

おおたわ史絵(おおたわ・ふみえ)

 

総合内科専門医。

法務省矯正局医師。

東京女子医科大学卒業。大学病院、救命救急センター、地域開業医を経て現職。刑務所受刑者の診療に携わる、数少ない日本のプリズンドクターである。

ラジオ、テレビ、雑誌など各メディアでも活躍中。

 

『母を捨てるということ』より引用

 

 

 

 

心に残った点・役に立った点

 

鎮痛剤の依存症

 

読み始めたらページをめくる手が止まらなかった。

 

ヘビーな内容なので、思い出すと辛かった部分もあっただろうに、とても抑制が効いており、冷静に書かれている。

おおたわさんは、素晴らしく頭の良い方なんだなぁと。

 

読んでいてこちらまで辛くなる部分もあったが、

それでも休憩すらせずに読みすすめることができたのは、文章も知的で簡潔で、女性として母との関係・葛藤に共感を感じる部分があったからだ。

 

依存症の知識が乏しい人にもわかりやすい本となっている。

 

依存症というとアルコールや買い物、覚醒剤などを思い浮かべる方が多いだろうけど、この本に出てくるのは、オピオイドという鎮痛薬の依存症。

 

麻薬によく似た化合物なので鎮痛効果が高く、そのぶん習慣性も強い。

ナースやドクターの中にもこっそり自分で打つ人もいるそうで、だから厳しく管理されている薬品。

 

よく海外ドラマなどを観る人は、

戦争や紛争地から帰ってきたアメリカ兵が怪我をきっかけに、

鎮痛剤の依存症になっているという場面を見たことがあるかもしれない。

 

でもこれは、海外のテレビドラマの中ではなく、

実際に身近なところでも起きているかもしれない依存症の話なのだ。

 

 

代理ミュンヒハウゼン症候群

おおたわさんが小学生だった時、

お母さんがミルクセーキを作ってくれた。

彼女の家では家政婦さんがいて、お母さんが家事をすることが殆どなかったため、そのミルクセーキはとても美味しく感じられたとの事だが、なんとそこに下剤が入っていたそうなのだ。

 

ミュンヒハウゼン症候群詐病の事だそうだ。要するに仮病の事。

だが、お腹が痛いと嘘を付くレベルではなく、

自分の尿に自分の指先を切って出した血を混ぜ、血尿が出たと大騒ぎしたりする一種の精神的な病なのだそうだ。

 

そして、ミルクセーキに下剤を入れた母は、どうやら代理ミュンヒハウゼン症候群

 

自分ではなく、代理となる誰かを病気に仕立てあげ(自分の子供や幼く抵抗しない無力な存在が対象になることが多い)、心配したりして病院に連れて行って看病したりするのが代理ミュンヒハウゼン症候群との事。

 

こういう母は、そういえばアメリカのドラマなどにもごくたまに出てきたりすることがあるなぁと思い当たった。

 

 翌日、当然ながらわたしはトイレにこもりっきりになるほど下痢をした。お腹を押さえて痛みに唸る幼いわたしを見ても、母はなにひとつ心配するでもなかった。

 ただ腹痛の合間に視野をよぎった母の顔は、一瞬だがちょっとだけ口元を歪めて、うっすら笑っていた気がした。

 

『母を捨てるということ』 代理ミュンヒハウゼン症候群 より引用

 

理解し難い精神の疾患だが、原因はわからないし劇的に完治するというものでもないそうだ。

 

大人になって、そういった知識を得ると多少は理解できるかもしれないが、

子供には理解の外なはずだ。

傷つき、辛かっただろうことを思うと胸が痛む。

 

 

 

自傷行為と優しい手

自傷行為と優しい手」という章に、子供の自傷行為について書かれている。

 

爪噛み、チック、抜毛症(はつもうしょう=トリコチロマニア)。

これが学童期の子供に見られやすい自傷行為だそうだ。

精神的な要因と発達期の不安定性の関与が大きいとの事。

 

この部分を読んで驚いた。

私も小学生から中学卒業するあたりまで、爪噛みがあったから。

そして爪を噛んでいると、よく母に怒られた。

今考えると、母との関係が原因の癖を母に怒られていたわけだ。

 

私の両親は、体裁をとても気にする人で同時にとても支配的だった。

特に母の事は大人になってもずっと苦しんだが、

爪噛みは、高校に入る頃に自然とやらなくなっていた。

 

爪を噛む癖がある子供は、周りに結構いたので全然気にしていなかったが、

みんなただの癖だという位の認識で、自傷行為だとは思っていなかった。

 

ということは、子供の悩みや問題は見過ごされていることが多いということでもある。

 

外国では、爪を噛む癖を治すために爪に塗るものもあったりするので(爪を噛むと嫌な味がするので爪を噛まなくなるという商品)、爪噛みという自傷行為はとても多いのかもしれない。

 

 

イネイブラー

 

イネイブラーとは支え手の事だそうだ。

アルコール依存症の夫のお酒を買いに行ったり、夫が二日酔いで会社に行けない時に会社に電話を入れたりするのもイネイブリングだそうだ。

はたらか見ると被害者でもあるが、支え手になっているのも事実ということ。

それが優しさや愛情からでも。

 

そして、家族など周りが依存症の家族にお酒を飲まないでなど反対しても、それがストレスとなって依存が悪化するものなのだそうである。

 

こうした事は今まで、精神論(根性でやめられるというような)ばかりで語られてきた依存症にも、きちんとした知識が必要という事をわからせてくれる。

 

良かれと思ってやっていることが逆効果だなんて、皮肉なことではあるが。

 

 

依存症はセルフメディケーションという事

 

おおたわさんのお父さんとお母さんがどうなった等は、

ここで書くよりも実際に読んでいただいた方が良いかと思う。

 

 

なぜならこの本の主題は、そこでは無いように感じたから。

 

辛く悲しく、そして後悔することもあっただろう事を客観的な視点をもって書かれているところに、おおたわさんの伝えたいという意思を感じた。

 

本書に出てくる、日本の依存症治療の中心を担っているという松本先生は、以前高知東生さんが薬物依存から立ち直った時の治療にあたった方として存じ上げていたので、ここでも名前が出てきてなるほどと思った。

 

松本医師から言われた、依存症は病気と事を高知東生さんは最初はなかなか受け入れ難かったという事をおっしゃられていた。

自分はそんな病気じゃないと思いたいという抵抗感があったとのこと。

でも病気と自分で認識する事で治療が効果的にすすんでいったようなのだった。

 

松本医師がおっしゃる、

”依存症はセルフメディケーションである”

という考え方になるほどと思った。

 

これは「依存症は脳が刺激を欲しがるからだ、快楽に溺れてしまうからだ」という考え方に一石を投じる考え方だと思う。

 

「気持ちがよくなるから使うんじゃない。つらさや苦しさを軽くするために仕方なく使うんだ」と依存症患者はいうのだそうだ。

 

これは、言われてみればとてもわかる。

私も過去に食べることに依存した事があるからだ。

過食症は拒食症の女性は母との関係に葛藤がある人が多いということも読んだことがあり、本当にそうだなーと自分でも思っていたけどなかなかやめられなかった)

 

依存症はセルフメディケーション

 

だから、依存性物質を無理やり奪い取るのではなく、頼る必要をなくしていくこと。

 

ここを知るのと知らないのでは、まったく違うような気がする。

 

依存症は、精神論で語られてきた部分も多いので、

きちんとした知識と治療を行うことに抵抗を持つ人もまだまだ多いかもしれない。

 

だが、家族もとても苦しむのだ。

 

この本の最後の方には、八方塞がりを感じている依存症家族のために書籍などが紹介されている。

 

まず、依存症の治療は家族からとも書かれている。

 

依存症の方を抱えている家族の方はこの本は大きな助けになるかもしれない。

 

 

終わりのない旅

医師として、依存症家族として、

できるだけヒントとなるようなことを書いたとおっしゃるこの本は、

依存症と向き合う人・家族に前に進む勇気をくれる本だと思う。

 

そして、依存症とは関係なくても、

母との関係に苦しんだ女性にとっても何かしら感じるものがあるかもしれない。

 

読みながら、とても胸が痛むシーンがたくさんあり、

私の中の、”傷ついた昔の私”が、

心の奥にしまったところからまた顔を出すような気がした部分もあった。

 

でも、おおたわさんが刑務所の受刑者や医療少年院の診療にあたるようになったことを考えると、辛かったであろうおおたわさんのこれまでの事が、彼女の聡明さと経験と意思よってしっかりと一本の道を作っているような気がしてとても感動してしまった。

 

矯正施設で「笑い」も教えているとのこと。

 

この本を読んだことにより、

おおたわ史絵さんという生き方を知り、ほんとうに良かったと思っている。

 

機会があれば、この本の続編のようなものを出していただけたらと思っている人は私だけではないだろう。

 

心より応援しています。