辛い時にはいつも本があった

辛い時にはいつも本があった

辛い時、苦しい時、悲しい時に書店に行くといつもその時の気持ちにぴったりの本との出会いがありました。

【おすすめ本7】将棋指しの腹のうち 先崎学  

本文中にある通り、夢を売る世界こそ、扉の向こうには夢がない。

世界に夢を持ち続けたい人は、決して扉の向こうを覗いてはいけない。私は本書にて、食事、そして棋士というものをとっかかりとして、少し扉の向こう側-私や棋士の世界を書いてみた。

いうまでもなく、ムラの世界はタブーが多い世界である。

さまざまな将棋界のことを書いてきた私だが、酒の席のことはほとんど書いてこなかった。もちろん、だからタブーを破ったのだ、などという青臭いことは言わないが、本書には、将棋メシを通して、あるいは酒席での会話を通して、プロ将棋界の本質をつかめるものが隠されていると自負している。

 

『将棋指しの腹のうち』はじめに-より引用 

 

このブログの【おすすめ本3 うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間】は2018年7月出版。

 

こちらは、2020年1月出版。

(どちらも文藝春秋社 発行)

 

この本を読むと、うつ病は治り再発もしていないという事がわかる。

 

内容も洒脱で楽しく、読んでいるこちらまで「うつ病が治って良かったなぁ。」と嬉しくなってきてしまう。

 

 

 

この本をおすすめしたい人

  • うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』を読んだ人
  • 将棋ファン
  • 棋士が何を食べているのか知りたい人
  • プロ棋士の普段は絶対知れないエピソードを知りたい人
  • 笑ったりジーンとしたりしたい人
  • 昭和・平成の頃の将棋界の雰囲気を知りたい人

 

作者紹介

先崎学(せんざき まなぶ)

 

1970年、青森生まれ。

1981年、小学5年のときに米長邦雄永世棋聖門下で奨励会入門。

1987年、四段になりプロデビュー。

1991年、第40回NHK杯で同い年の羽生善治を準決勝で破り棋戦初優勝。棋戦優勝2回。A級在位2期。

2014年、九段に。

 

2017年7月にうつ病を発症し、慶応義塾大学病院に入院。

8月に日本将棋連盟を通して休場を発表した。

そして1年間の闘病を経て2018年6月に順位戦で復帰を果たす。

著書の『うつ病九段』(小社刊、2018年7月)がベストセラーとなる。

 

『将棋指しの腹のうち』より引用

 

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この本のおすすめポイント

  • 読みやすく、読み始めたら止まらない

あとがき含め191ページ。

字が大き目でそれほどボリュームあるわけでは無いので、するする読める。

なんと言っても面白い。

これは、彼の文才とバランス感覚のお陰だろう。

 

  • 載っているお店に行く楽しみもある

 プロ棋士達が行くお店なので(プロ棋士の社員食堂化している店も)、将棋会館に近く気分を味わえそう。

(ただし、載っているお店はもう無いお店も有り)

 

  • 7件分お店が載っていてそれぞれにまつわるエッセイが書かれているが、それぞれ巻末にその中に出てくる人物の解説がついているので、将棋やプロ棋士に詳しくない方でも楽しめる

 

私など全く詳しくないのだが、この解説で興味を持ちネットで調べたプロ棋士の方もいる(そうするとそれが中々面白いのだ)

 

  • 昭和や平成の時代の将棋界の雰囲気がわかる

これが、本当に面白い。

パワハラもたくさんあったという時代。

びっくりするような内容も。

 

気前が良く鰻好きの先輩が対局の時は、ツボをくすぐるような誉め言葉を言っておごってもらう(その色々な工夫が面白い)

 

足が立たなくなるほど酔ったり、酒席で大ゲンカしたり。

 

これ以上書くと読む楽しみがなくなるので、あとは割愛。

 

プロ棋士って本当に天才集団なわけだが、その天才たちが人間臭い(それどころか、みんな相当な負けず嫌いなので喧嘩などもプロ棋士の外見から想像するよりも激しかったり)。

 

そういう部分が意外だったり、面白かったり。

でも、何回生まれ変わってもプロ棋士みたいな頭には生まれないだろうなぁと思う私であっても、そういう”はみだした”部分を知ると、あぁ彼らも人間で激高したり泥酔したりしたい気分の事もあるんだなぁと嬉しくなるのである。

 

 

   

心に残った点

 

(略)我々がよく会っていた十代後半のころ、そこには「性の香り」がまったくしなかった。

十代後半男子というのは、ほぼ頭の中が異性のことしかなく、体全体から性欲が匂い立つ時分である。そうした空気がまったくと言っていいほどもなかった。

アイドルの話、女の子の話などもほとんどしたことがない。

我々は、十代後半男子の持つ本能昂るエネルギーをすべて将棋にぶつけたのである。

 

 将棋は戦争なのである。

それも、高度な武器が発達した近代以前の戦争を反映したゲームなのだ。

まず自分の陣形を作り合う。

そして、戦いが始まって、相手の陣形の一角が破れたら、一気にそこからなだれ込んで敵の大将である玉に向かって一気に攻め込むのだ。

小学校低学年からこおゲームをやり他には何もやっていない者が、闘争心が弱いわけがない。

 

『将棋指しの腹のうち』より引用 

 

この本に書かれているプロ棋士のベースは、ありったけの情熱を”将棋だけ”にそそいで来た人生の上になり立っているという事。

 

それがすごくよくわかるのだ。

 

人生のほとんどが将棋という凄まじい世界。

 

プロ棋士のほとんどは、子供の頃から知っている顔ばかりでもあるムラ社会という中でずっと過ごす。

もちろん人間関係も絡み喧嘩や罵倒もあるが、そんな”ムラ社会”の中で過ごしてきた人達にしかわからない仲間意識というものをこの本では感じて、その世界にいる訳ではないのにジーンとしてしまうのだ。

 

「チャコあやみや」での羽生善治氏とのやりとりも、大げさな内容ではないがぐっとくる(それは読んでのお楽しみ)

 

私が一番心に残ったのは、「ふじもと」の章の中に出てくる逸話。

 

その時代は、今よりはるかに偉い立場だったというA級棋士奨励会員の話。

ここで内容を書くのはヤボだから割愛するが、胸にくる話であった。

 

このエピソードを書いたのは、昔の将棋界の感覚を伝えたかったからである。

 

『将棋指しの腹のうち』「ふじもと」より引用

 

先崎氏は昔は良かったなどという、薄ぺっらい郷愁で書いたのではないと思う。

 

その時代に確かにあった将棋界の雰囲気。

(荒っぽいところも含めて)

 

その中で切磋琢磨して凌ぎを削ってきたプロ棋士達の泥臭くも熱いやり取りを書きたかったのかもなぁと思うのだ。

 

そのあたりを味わいつつ読めて、読後に淡く胸にくるものがあったのでおすすめです。

 

 

 

 

 

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