『人生は楽しいかい?』ゲオルギー・システマスキー著 北川貴英 監修
株式会社夜間飛行 2016年6月発行
人生は楽しいかい?
あなたはこの問に、心の底から「イエス」と答えることができますか?
プロローグの[本書の使い方]は、このような言葉ではじまる。
そしてプロローグは、
準備はいいですか?
心から人生を楽しむための知恵を、「僕」とともに学ぶ旅にでかけましょう!
という言葉で終わる。
この「僕」が、この本の物語の主人公。
その「僕」が、ある日電車の中でトラブルに巻き込まれ、無力な自分という現実をつきつけられる。だけど、このトラブルに巻き込まれたことによって、ある人物に出会い、自分の人生を変えていくというのがこの本のストーリー。
この”ある人物”というのが、とても興味をひかれる部分。
そして本書のキモ。
ゲオルギー・システマスキー(通称ゲオ)という元ロシア特殊部隊という架空の人物。
このゲオからの”指令”で「僕」は、少しずつ自分を変えていく。
物語形式を取っているのだが、これがなかなかおもしろい。
そして、”指令”は一見簡単に思えるが、奥深い。
人生は楽しいかい?
そう問われた事もなければ、人生が楽しいかどうかなんか考えもしたことがない(というか、人生は楽しいというより辛いもの、という風に私は思っているのだと、この問いから今回気がついてびっくり)
私のように、人生は楽しいかどうかも考えたことが無い!という方に、おすすめしたいのでご紹介。
この本をおすすめしたい人
作者紹介
北川貴英
各地のカルチャーセンターなど年間400コマを超すクラスを指導。
『システマ入門』(BABジャパン)、『システマ・フットワーク』(日貿出版社)、『最強の呼吸法』(マガジンハウス)、などシステマ関連の著作を多数執筆し、創始者ミカエル・リャブコ来日セミナーのオーガナイズなどにも携わる。
2006年以来、毎年欠かさず数度の海外研修を実施し、知識とスキルのアップデートに努めている。
『人生は楽しいかい?』より引用
この本のおすすめポイント
- 各章がそれぞれひとつの”指令”をテーマにしているのでわかりやすい
- 物語形式で、読みながらシステマが理解できる
- システマを格闘技ではなく、知恵として取り入れられる
- ”呼吸する””ゆっくりやる”など取り組みやすい
- ストーリーが面白く、どんどん読み進められる
- 主人公がサラリーマンなので親近感がわきやすい
心に残った点・役に立った点
自分に心底がっかりした時こそ変わる時
プロローグは、「僕」が自分に心底がっかりする場面で終わる。
これは男としてなかなか辛い状況。
車窓にうつるさえない「僕」の姿。
自分のさえない姿を見ているうちに、目頭が熱くなり、喉からは嗚咽が。
恐ろしいのか、悲しいのか、悔しいのか、腹ただしいのか。
自分がどう思っているかすらわからないが、
”変わりたい”と、心から思った瞬間。
こんな場面からこの本は始まる。
人間って、普段は変わりたくないんだなぁと思う(無意識で現状維持したいのかも)
でも、こんな辛い思いをした時こそ、変わるチャンスでもある。
これは、私も体験して本当にそう思う。
ちょっとやそっとの悲しさなどではなく、心底辛い時こそチャンスなのかも。
心がギブアップするかどうか
”指令1”の最後にある「ロシア特殊部隊の教え」の言葉。
人は致命的でない傷で死ぬこともあれば、致命傷を受けても死なないこともある。すべてはあなたの心がギブアップするかどうかにかかっているのだ。
『人生は楽しいかい?』47ページより
「心がギブアップするかどうか」
どこがどうかわからないけど、この言葉にぐっときた。
ともすると苦しみを感じることがある今の私に、響いた言葉。
ゆっくりやる
極端なポジティブシンキングは、物事を一面的に捉えているという点では、ネガティブシンキングと同じなんや。
(中略)
平常心を保っているときは、こうやって物事の両面が見えとる。でも、パニックに陥るとあっという間に、一面的にしか見れなくなるのや。それがポジティブであろうとネガティブであろうと、平常心を失って、パニックに陥っとるという意味では同じやねん。
(中略)
無闇に急いでいる人間は、見落としてはいけない大切なことを見落としてしまうのや。
『人生は楽しいかい?』「指令2」ゆっくりやる より引用
極端なポジティブシンキングがネガティブシンキングと同じ?
「え?」
と思うような言葉。
でも、平常心を失っているという意味では同じだ。
これは本当に目から鱗が落ちた。
いつも平常心を失っていてゆとりがないから、ちょっとしたことでパニックに陥るし、自分が危険な状態にあるということに気づかないのや。
「指令4」距離を測る より引用
この本を読んだ後、自分で驚いたことがある。
デスクワークをしていた時の事。
急ぎの仕事でも無いのに、気がついたらとても急いで仕事をしている。
何故か焦って仕事をしている。
「ええっ?」とびっくり。
そういえば。
常に軽く焦っているような。
家事も仕事も、何故か急いでやっている。
だからか!
気がつくと体が固くなっている。
ゲオいわく、
身体がこってる=視野が狭い=平常心を失いやすい
このあたりは、やはりシステマという格闘技からの教えという感じ。
だが、本当にそうだ。
私は急ぐ必要も無いのに、軽くいつも焦っている。
あえてゆっくりやることで、気づきも得られるとの事。
驚くことに、「ゆっくりやる」事に何故か抵抗があるのだ。
仕事でも家事でも全てのことをゆっくりやる事ができない。
だからゆっくりしている人にも、イライラする。
これにはびっくり。
毎日が軽いパニック状態という事だ。
気がついた時に「ゆっくりやる」事を意識するようになった。
焦って仕事をしている時はやはりミスが多いのも納得だ。
まだ、いつも平常心とはいかないが、このことは今後も心がけていこうと思っている点。
任せる
人間というのは、事細かに指示を出せば出すほど『やる気』を失ってしまうものなんや。
自分で判断し、行動することによって人の能力は最大限に発揮されるのや。
『人生は楽しいかい?』「指令16」任せる より引用
支持はできるだけ簡潔なほうがいいとの事。
誰に(S:Subject)、何を(O:Object)、どうしてもらいたい(V:Verb)のか。
上司からの支持はこれ以上細かいものではあってはいけないそうだ。
緊急事態になればなるほど、支持は簡潔にすること。
うーん。簡単なようでいて深い。
そしてこの指令「任せる」は、その前の司令「分かちあう」とセット。
細かい指示は出さず、大まかな目標だけ共有し、あとは各々自分の裁量でがんばり、批判や責め立てることなく、情報は共有するということ。
システマは特殊部隊のメソッドだったわけで、
これは実際に特殊部隊で使われていたことを考えると納得。
命がかかっている場面だけではなく、普段の生活、そしてマネージメントの場面にも役にたつ内容。
仕事の場面では、完全に任せることができずに事細かに指示を出すということが多いのではないだろうか。
細かく指示を出すことが良い事にも思われているかも。
そして、上下関係があると「分かち合い」もなかなか難しく感じる場面も多い。
批判することで自分のポジションを相手にわからせる人も多いような。
この本は、ロシアのシステマで自分や人生を変えたサラリーマンの話になっているが、楽しく読めるし、気づきも多い。
「指令」は簡単に思えるようなものも多いから、違和感を感じる人もいるかもしれないが、やってみると深い。
おすすめです。
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