辛い時にはいつも本があった

辛い時にはいつも本があった

辛い時、苦しい時、悲しい時に書店に行くといつもその時の気持ちにぴったりの本との出会いがありました。

【おすすめ本19】わたしが正義について語るなら やなせたかし 【アンパンマンの勇気 弟】

年末年始は新しい年が始まりにふさわしい、心に残る本を読みたかったのでこの本を選んだ。

 

年末、年始とゆっくり少しずつ味わいながら読んだ。

途中、何度か胸に刺さったり、以前だったら何とも思わない箇所で涙ぐんだりした。

 

私の読書が、この本で2020年を終え、新しい年をこの本 で迎えられて良かった。

 

私のように、アンパンマンの事をそれほど知らない人にも(にこそ!)読んで欲しいなと思ったので、2021年最初にご紹介する本はこちらを!

 

 

『わたしが正義について語るなら』やなせたかし ポプラ社

 

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この本をおすすめしたい人

 

作者紹介

やなせたかし

 

1919年高知生まれ。

東京高等工芸学校(現千葉大学)工芸図案化卒業。

漫画家をめざしながら、三越宣伝部にグラフィックデザイナーとして勤務し、その後、舞台美術、作詞、放送作家など多方面で活躍する。

1973年、月刊誌「詩とメルヘン」(サンリオ)を創刊、責任編集を担当。

また同年、「キンダーブック」に「あんぱんまん」を初めて掲載、以後アンパンマンとその他多数の絵本を出版。

1988年、「それいけ!アンパンマン」の放映が日本テレビ系列で開始されると、爆発的な人気を得、現在に至る。

「やさしいライオン」をはじめ著書も多数。

また、作詞家としての代表作には「手のひらを太陽に」があり、アンパンマンの主題歌や挿入歌の作詞・作曲も手がけた。

2013年10月死去。

 

ポプラ新書 『私が正義について語るなら』より引用

 

 

この本のおすすめポイント

  • やなせたかしさんの生い立ち、その後の人生が作品に深く影響を与えていることがわかる
  • 母の再婚で孤独を感じていたという経験、第二の父母に育てらたという辛い時期(自殺しようとした事もあるという)があったという事を知り、より作品やアンパンマンの持つ意味が理解できるようになる
  • 巻末にある「著者からのメッセージ 僕はこんな本に影響を受けてきた」が載っている
  • アンパンマンに込められた意味、他のキャラクターに込められた意味、ばいきんまんの誕生の秘密などを通して、作者の思いを知ることができる
  • アンパンマンのマーチにある「愛と勇気だけが友達さ」は闘う時は友達を巻き込んではいけない、自分ひとりだと思わなくてはいけない、などやなせたかしさんの深い意図をしる事ができる
  • 正義とは、幸せとはを深く考える事ができる
  • 158ページの新書版なので、持ち運びしやすく気軽に読める

 

 

 

心に残った点・役に立った点

 

最初にアンパンマンを認めたのは3歳~5歳の子供達

 

 

 私は、東北大震災の被災者だ。

震災の後に、アンパンマンのマーチが震災後の応援歌のようにネット上でいろんなところで取り上げられていた。

その時に初めて、アンパンマンのマーチの歌詞を読んだが、

子供を持つ親では無かったので、子供や子供を持つ人用なんだろうなぁなんて思ってそれほどピンと来なかった(なんていうか、被災でそこまで余裕が無かったのかもしれない)

 

だが、今は本当に大尊敬している方。

 

最初に、やなせたかしさんの事をすごいなぁ!と思ったのは、

アンパンマンが自分の顔を食べさせるという事を知った時。

 

人を助けるという事は、自己犠牲も伴うということをきちんと、それも子供の世界で教えていたからだ。

 

この顔を食べさせるという事は、最初はとても不評だったとの事。

 

やなせたかしさんが54歳の時に絵本『やさしいライオン』を書いたら好評で、2冊目を書いて欲しいといわれて書いたのが『あんぱんまん』。

 

 

 

 

砂漠で疲れて動けなくなった人のところへアンパンマンがやってきて、自分の顔を食べさせる。

主人公はあまりかわいらしくなく、マントもボロボロ。

 

結果、本は大悪評。

大人には特にだめで、出版社の人に「やなせさん、こんな本はこれ一冊にしてください」と言われたそうだ。

幼稚園の先生からは「顔を食べさせるなんて残酷」と苦情が来たそう。

絵本の評論家にも、こんなくだらない絵本は図書館に置くべきではないと酷評された。

 

だけど、顔を食べさせてしまって顔がないアンパンマンが空を飛ぶところを書きたかったのだそうだ。

 

顔が無い=無名

 

顔パスという言葉があるけれど、普通の人は無名。顔は知られていない。

顔を失ってしまったアンパンマンは、エネルギーを失って失速するが、その部分を書きたかったと。

 

その五年後、近所のカメラ屋にフィルムを出しにいったやなせたかしさんが、店の主人に自分の子供がアンパンマンが好きだと教えられる。

 

それが最初の予兆になり、次第に似たような話を聞くようになって行ったとの事(幼稚園や保育園で人気が出ていつも貸し出し中になるとか)

 

アンパンマンを最初に認めたのは、まだ文字もあまり読めない3歳~5歳の子供達。

 

子供だから、権威ある人の意見も関係なく、先入観なしにアンパンマンを認めた。

 

この事でより

「正義とは何か。傷つくことなしに正義は行えない」

というメッセージをしっかり込めるようにしたそうだ。

 

自分の子供の頃の事を考えると、大人は、子供をなめているのではないか?と思う。

子供にはこういうのでしょ!っていう決めつけを感じるというか。

 

子供は子供なりの感性で色んなものを受け入れていく力がある。

そして、子供は案外残酷なのである(虫の羽をむしったり)

 

子供には、綺麗なものや物事の良い面だけを見せておけばよいという感じで作られたものも多い(と子供の頃感じていたし、そういうものは退屈で大人はこういうのを与えておけばよいと思っているんだなーと子供の頃、思ったことがある)

 

 まっすぐ、子供に伝えようと思って作ったものなら、子供は子供なりに受け止められるものなのかもしれない。

 

やなせたかしという生き方

80歳からは作曲を初めて、84歳でCDを発売して歌手デビュー。年に数回はコンサートをやっていましたから、どうも我ながらヘンですね。奇妙な事になりました。

(中略)

人生の楽しみの中で最大最高のものは、やはり人を喜ばせることでしょう。

すべての芸術、すべての文化は人を喜ばせたいということが原点で、喜ばせごっこをしながら原則的には愛別離苦、さよならだけの寂しげな人生をごまかしながら生きているんですね。

 ぼくの本を読む人、テレビを見たりコンサートに来る人には、心の底から楽しんでほしい。この世の惨苦、終わらない戦争、血まみれの惨劇、嘘つきの政治家、金権体質、すべてをぼくは憎悪するけれども、怒るよりも笑いたい。ひとときすべてを忘れていたい。

人生なんて夢だけど、夢の中にも夢はある。

悪夢より楽しい夢がいい。すべての人に優しくして、最後は焼き場の薄けむり。誰でもみんな同じだから焦ってみても仕方がない。そう思っています。

 

『わたしが正義について語るなら』第4章 ぼくが考える未来のこと より引用

 

この文に、やなせたかしさんの真髄があると思う。

 

以前、何かでやなせたかしさんのエッセーを読んだことがあるが、

本当に色んなご病気を抱えていたようだ。

 

そんな事をおくびに出さず、人を喜ばせるために色んな事をなさっていたという事だ。

 

この本にある、生い立ちを書いたところに、

なぜ頼まれていたのか、自分では分かりません。小さい頃から相変わらずの生意気でルックスが悪く、人見知りで不器用、才能も薄くて絵が下手だったぼくですが、なぜかいつもどこからともなく不思議な人物が現れて、仕事の注文をしてはぼくを助けてくれました。

 

『わたしが正義について語るなら』 どうして正義をこう考えるようになったのか より引用

 

ご自分のルックス や才能について、本の中には何回か書いてあり、読んでいてちょっと胸が痛くなった。

でも、それがやなせたかしさんの優しさにもなったのかも知れない。

 

 
正義の味方

戦争が終わって、アメリカのスーパーマンスパイダーマン、いろんなヒーローがいっぱい出てきました。正義の味方だといって、どんどん人気が出た。ところが彼らは、飢えた人を助けに行くとか、そういうことは全然やらないのですね。

(中略)

それからスーパーマンはやたら派手派手しい服を着てニューヨークを飛び回っています。その姿が変に思えたんだよね。餓えた子どもには何もやらないで自分のことだけアピールするコマーシャルみたい。

 

『わたしが正義について語るなら』 正義の味方って本当にかっこいい?より引用

 

やなせたかしさんは、兵隊として戦争に行って泥の中を這いずり回ったり、野戦銃砲隊という部隊で大砲に一番大きな弾丸を込めて持って歩いていたから大変な重労働だったけど、耐えられなかったのは食べるものがないという事だったと、本の中で語っている。

 

そんな体験をしたからこそ、スーパーマンに違和感を感じるのかもしれない。

アメリカは戦争中でも餓えたりしていないし、戦争を体験した世代でも日本とはヒーロー像が違うのかも。

 

正義はある日突然逆転する。

逆転しない正義は献身と愛です。

それは言葉としては難しいかもしれないけれど、例えばもしも目の前で餓えている人がいれば一切れのパンを差し出すこと。それは戦争から戻った後、ぼくの基本的な考えの中心になりました。

 

『わたしが正義について語るなら』正義の味方って本当にかっこいい? より引用

 

正義は、時代と価値観によっても変わる。

普段の生活の中で人を殺したら犯罪だが、戦争の中ではヒーローになったりするよね。

 

 

やなせたかしさんは、こう続ける。

戦争だって、両方とも光と陰があって絶対的な悪があるのではない。

アラブにはアラブの正義、イスラエルにはイスラエルの正義がある。

相手をやっつければいいかというとそうはいかない。

そんな簡単なものじゃない。

 

と。

本当にそうだ。

すぱっと分けられるものでは無いよね。

絶対的な悪があるのではないと考える事、光と陰が両方にあると考える事は大事だなぁと思う。

これは俯瞰した視点を持つことでもあるなぁと思った。

 

アンパンマンをテレビで子供と見たり、絵本を読んだりした子供が大きくなって一緒にこういう事を話せる親は素敵だなぁと思う。

 

だから、色んな人に読んで欲しい本。

とてもおすすめです。