【おすすめ本75】『上を向いて生きる』宮本亞門 がんは命の勲章
『上を向いて生きる』
宮本亞門
2020年 幻冬舎発行
この本をおすすめしたい人
- コロナ禍で気持ちがウツウツとしている人
- 自分もしくはご家族ががんの人
- 老いを感じて憂鬱な人
- 両親に葛藤を持っている人
この本のおすすめポイント
- 辛い人みんなを応援する内容なので、気持ちが明るくなる
- 前立腺がんについてかなりオープンにしている(普通の人ならいいにくいことも)
- 生きることが辛い、生きる価値が無いと思ってきた著者だから語れる事なので心が温かくなる
- コロナ禍から立ち上がろう!というメッセージがこめられている
心に残った点・役に立った点
「上を向いて歩こう」プロジェクト
この本を読んで始めて、
2020年4月、宮本氏がYouTube上で「上を向いて歩こう」を歌い紡ぐプロジェクトを立ち上げたことを知った。
そのきっかけになったのは、
2020年2月に氏がニューヨークに滞在していた時、
行きつけのレストランでアジア人だけで固めた端の方の席に案内されたことだそうだ。
コロナによる分断を感じた瞬間。
舞台が次々と中止になり、
なんのために舞台を作っているのか改めて考えるようになったとのこと。
ミュージカルは、勇気と希望を与えることが役目なら、
できることは無いかと考えたのがそのプロジェクトだったそう。
事務所を通さず、直接電話で無償で歌うことを交渉。
これは芸能界のルール違反。
「無償はありえません」と断られたり、
「こういうことをさせたかったんです」
と喜んでくれたりとマネージャーの反応はバラバラだったとのこと。
だから、このプロジェクトで歌っている人たちは
みんな無償で歌っている人達。
辛い時期や、悩んでいる時期は、
頑張れ!頑張れ!(だって頑張っているのにね)
ポジティブに!ポジティブに!ネガティブはダメ!(ネガティブがあるからポジティブもあるのに)
というような曲よりは、
「上を向いて歩こう」のような、曲のほうが心に響くんだなぁーと。
この曲は、人によって受けてとり方や感じ方が違ったりするだろうし、ぴったりの曲なんだね。
立ち止まるきっかけ
コロナウィルスで現れてきたように見えるように見える問題も、
もともとあった問題がそれぞれの国ではっきりしてきた結果と、この本で宮本氏は言う。
演劇界でも、日本の演劇人は、
自分たちの仕事の環境をあまり話をしてこなかったそう。
組合も少なく、舞台は初日のギリギリまで絶対仕上げなきゃと徹夜して開けてきた。
外国人スタッフは、
「この国は信じられない」「全員が怒鳴ることなく、黙々と休まずに働いている」
と驚くのだそう。
全員がボロボロになりながら、こんなに短時間で作らなければならない舞台は世界中で日本だけなのだそうだ。
コロナウィルスは、そういう誰も止めることができなかった現状にブレーキをかけてくれたと。
これまで、早く、安く、儲けることが主軸となっており、「ああでもない、こうでもない」と、皆でブレインストーミングする時間もなかった。今後の未来や、社会における意味合いなどについて話す時間もありませんでした。
ですから、アーティストに対する補償金の少なさなども、新型コロナウィルスによって膿が出た、と言えるのだと思います。新型コロナウィルスによって生じた、今回の巨大なブレーキ。これは、演劇界だけでなく、全ての分野においても、縦割りではなく、横に繋がることの大切さを、教えてくれているのだと思うのです。
『上を向いて生きる』より引用
そう言えば、バレエの熊川哲也氏はロイヤル・バレエ団で活躍されたが、
海外は代役が必ずいる、だが日本は代役なしでやるので怪我をしても無理して出演しなくてはならない。
当然ながらベストなパフォーマンスではないし、体にもものすごく負担がかかると言っていた。
人に無理させて(時には切り捨てて)創り上げる風習(一般の会社もそう)が、日本は強すぎてそれを美化したり美談にしたりしてごまかしてきたが、苦しまなくても良いようにシステムを変えていく時期に来ているのかもしれない。
歴史を知らない人は歴史を繰り返す
私達人類が誕生してから、何度も私たちは大きなサイクルを繰り返し経験してきました。例えば約200年前も、1833年に冷害や長雨の異常気象で大飢饉に。そのペール艦隊が強制的に日本を開国。翌年には、東海沖でマグニチュード8.4の大地震。その翌年には江戸で直下型大地震が置き、死者多数。そして数年後、外国人が持ってきたコレラが大流行し、江戸でも10万人近くが死亡。その時のデマによる虐殺のため、治安維持法が成立して、1929年に世界大恐慌が訪れます。
(中略)
恐れずに言うならば、森羅万象すべては、崩壊させられることで、次に進化してきたのですから。
でも、大丈夫。私たちには、自分たちのみを守るためにそれを乗り越えてきたDNAがあります。不安な時はDNAのアンテナを張って、五感、六感もフル回転させ、直感と予感を大事にしてください。
あと数年すれば「あの時があったから、変われたんだね」と微笑んで話せる時が必ず来ます。新たに訪れる時代のためにも、温故知新の気持ちで歴史を知り、あなたのDNAのアンテナを張って、心穏やかに心身を守ってください。
『上を向いて生きる』より引用
これを読んでひとつの気付きがあった。
私が存在しているということは、
上記引用の時代にも、私の先祖は生き残ってきたということ。
大飢饉にも、コレラにも、そして戦争にも。
(私の両方の祖父は戦争に行っている)
私が知っている先祖は、祖父祖母あたりまでだが、
顔も知らぬ私の先祖たちが生き残ってくれたから私がいるんだなぁと。
私の知らない先祖たちに感謝がわいてきて、
自分でも説明できない気持ちになった。
乗り越えてきたDNAがある。
私の中にも、主人にも。
義父の事を考えるとイライラすることもおおかったが、
義父だけではなく、その両親や先祖がいなかったら主人もいなかったんだなぁ。
あなたにも。
考えれば当たり前の事なんだけど、
この気付きは私にとって大きかった。
がんになって感謝を知る
不安と恐怖はあなたの心が暴走して作った虚の世界。
『上を向いて生きる』より引用
この一文を読んで思い出したのは、ミシガン大学研究チームの調査。
「心配事の80%は起こらない」という結果がわかり、
残り20%のうち、16%は準備をしていれば対応可能なこと。
だから、この一文にはとても納得し、心にしみた。
今不安な人は、この一文が心に響くのではないだろう。
この本の中で、
宮本氏は前立腺がんのことをかなりオープンに話している。
こんな事までばらしていいの?
イメージとか大丈夫なの?
という心配をしてしまうほど。
前立腺は生殖器なので、オープンに表で語られることもそう無いわけで。
語り辛い部分があるかもしれないのにとも思うが、
伝えられることは伝えていこうと思っているとのこと。
その部分が宮本氏が人間としてかなり大きくなって、日々成長し、
自分の伝えられるものを沢山の人に伝えたいという気持ちが伝わって来た。
この本の中で、
がんの事が語られているのは、ごく一部だが、
がんの人やご家族の人にも読んで欲しい内容だと思った。
「生きる」とは
ミュージカル『生きる』は、
2018年に初演し、2020年再演。
私はこの本を読むまで、
ミュージカル『生きる』の事は知らなかったのだが、
まず黒澤映画をミュージカルにするということに驚いた。
映画『生きる』は、ものすごく好きという映画ではないが、
(なんと言っても『七人の侍』が全てにおいて最高に感じる)
とても心に残る映画。
PVを観たが、これ観たかったなぁーと悔しく思った。
コロナ禍は、本当に沢山の人の心の栄養を奪っていった。
(必要不可欠ではないかもしれないが、本や映画、舞台などが生きていく勇気を与えてくれることもあるし、実際に死を思いとどまられせて人の命を救うこともある。コロナ禍でいらないものと切り捨てられるのは残念だった)
鹿賀丈史さん、いいですね。
私は何故か、若い時から「この俳優さんいいなぁー。」と思う男優の方は
決まって歌って踊れる方。
『昨日の敵は今日の友』で、お風呂で気持ちよさそうに歌っているのをみて、なんてのびのび歌うんだろう!とファンになった。
飄々としたように見えるところもいい。
あと、子供の頃は村井國夫さんのファンだった。
(声と佇まいが子供ながらにも好きだった)
そうか。
この本のテーマも「生きる」という事なのかも。
沢山の経験をして(生と死も)60歳過ぎたからこそ書ける内容。
弱気になった時、宣言してください。
生きて!生きて!上を向いて生きる!
『上を向いて生きる』より引用
おすすめです!