【おすすめ本93】『石原慎太郎と日本の青春』 永久保存版 文藝春秋特別編集
『石原慎太郎と日本の青春 永久保存版』
令和4年4月15日発行 株式会社文藝春秋 文春ムック
今年1月に石原慎太郎氏が亡くなり、
翌2月に西村賢太氏が亡くなった。
石原慎太郎氏の小説は、
高校の頃、全集を読み(もちろん図書館から借りて)、
『太陽の季節』より『化石の森』を読んで衝撃を受けた。
私達の世代は、
小説家よりも政治家のイメージが強かったと思うが、
全集を読んでみると、根底にあるのは”作家の魂”なのだということをはっきり感じ、それはこの本を読んでますます強く感じた。
この本をおすすめしたい人
この本のおすすめポイント
- 石原慎太郎という人のエッセンスを知ることができる
- 弟裕次郎氏との絆や半生が率直に書かれている
- エッセイだけではなく対談、日本論、田中角栄の事、撮影所日記、芥川賞全選評など載っている内容が幅広く網羅されている
- この本を読むことによって当時の雰囲気がわかる
心に残った点・役に立った点
太陽族・裕次郎、新人作家ブーム
私が生まれる前の話で今までよく知らなかったのだが、
石原慎太郎氏のデビューはかなり鮮烈なものだったのがこれを読むとわかる。
何しろ、それまで地味で受賞パーティーなども開かれなかった芥川賞が注目されるきっかけを作ったのが彼のデビューだったとのこと。
慎太郎カットという髪型も流行ったとは、
本当に時代の寵児だったことがわかった。
その頃の日本のことを考えると当時の同年代にとっては、
石原兄弟はさぞや眩しかったのだろうなぁと用意に想像がつく。
19歳のときに、
父・潔さんが脳溢血で亡くなられ、
その時に一家の家計を支える必要から京都大学を諦め、
その後、放蕩を続ける弟・裕次郎氏に苦々しい思いを感じていたことも書かれている。
だが、そんな弟とその仲間たちをモデルに書いた『太陽の季節』でデビューするのだから、人生とは不思議なものだなぁと思う。
僕たちの時代
「文學界」に最後に記した半生の記、『僕たちの時代』。
彼の政治家としての発言は、
少年時代の経験が色濃く反映していることが読んで理解できた。
逗子の小学校に転校生として入ったことで、待ち伏せにあい、
6人に袋叩きにあい、その最中に通りかかった弟(裕次郎氏)が、
手を出せず立ちすくんで泣きながら眺めていたのを
家に帰ってから母親から不甲斐なさを咎められた。
それ以来、何かあったとき兄弟二人で戦う習性が出来上がったということが書いてあったのが、読んで心に残った。
日本が敗戦し、戦争が終わったことで
偽政者が強いた屈辱が多々あったそうで、
それらがここに書かれている。
子供だった氏はアメリカ兵からすれ違いざま、
持っていたアイスキャンデーで頬を殴られたり、
戦争犯罪に関する裁判の傍聴に行ったとき、
MPに下駄がかたかたうるさいと言われ、
言われるままに脱いだ下駄を蹴飛ばされ、床を這って下駄を探し回った話など。
こういった悔しさは、
戦後生まれの私には体験していないからわからない。
想像するのみだ。
戦後は遠くなった気がしていたけど、
よくよく考えてみるとそんなに昔のことではないんだなぁと思う。
戦後の日本を知る1つの手がかりにもなった。
文学は価値観を壊せる
芥川賞の選評が全部載っていたが、
これが面白い。
石原慎太郎氏は、
文学に既存の価値観を壊せる力があると強く信じていたことがわかったから。
前々から「石原慎太郎氏は、そうだろうなぁー」と思っていたが、
それは、価値観を壊すような文学が好きで、
キレイな浅いものが大嫌いなのがよく分かる。
晩年になっても、やはり『太陽の季節』を氏の根底に感じる。
読み応えはかなりあるし、
かなり面白く、おすすめの本です。