辛い時にはいつも本があった

辛い時にはいつも本があった

辛い時、苦しい時、悲しい時に書店に行くといつもその時の気持ちにぴったりの本との出会いがありました。

【おすすめ本28】ひとりのおんな 加藤治子 【生い立ちや夫の事など】

『ひとりのおんな』加藤治子 福武書店 1992年発行

 

寺内貫太郎一家』が放映されていたころは、物心がついていないので観たことはなかったが、10年ちょっと前頃かスカパーのTBSチャンネルでたまたま観たらこれが面白い!(その後DVDをボックスで購入したほど)

 

その『寺内貫太郎一家』に出てくる加藤治子さんが大好きで。

あんなお母さんいいなぁというのもあるが、たまに魅せる表情がとても美しくて。

白い割烹着を着たいかにも「日本の昔のお母さん」という役なのだが、

眼がキラキラしてはっとする時があった。

 

そういえば昔、TBSではよく向田邦子のドラマをやっていた時があって。

女の業のようなものをうまく描いていて切なかったり、

心に残るドラマだったが、清水美沙さんとか田中裕子さんなどともに、

加藤治子さんも印象深かった。

 

私が好きな女優さんは加藤治子さん、山岡久乃さん、乙和信子さんなど、お母さん役が印象強いが、ご本人は離婚後独身を通した方ばかり。

女優というのは、女の”さが”を演じる事も多いが、上記の方達は”女の人生”というものを感じさせてくれる方達だからだろうか。

 

この本は、加藤治子さんの自叙伝に近い内容(形式はインタビュー)で、

加藤治子さんの

 

この本は90年代出版とかなり古いものなので、

ユーズドもしくは、手に入りにくい方は図書館でどうぞ。

 

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この本をおすすめしたい人

 

作者紹介

加藤治子(かとう・はるこ)

 

東京生まれ。女優。

1939年「花つみ日記」で映画デビュー。

52年「恭々しき娼婦」で岸田國士賞を受賞。

63年に現代演劇協会付属劇団〈雲〉を創立、75年に退団。

以後「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など多数のTVドラマや舞台で活躍。

 

久世光彦(くぜ・てるひこ)

1935年東京生まれ。

演出家。

東京大学文学部美術史学科卒業後、東京放送に入社。

以後「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」など多数の作品の演出をつとめる。

79年、東京放送を退社し、「カノックス」を設立。

著書に「昭和幻燈館」「怖い絵」などがある。

 

『ひとりのおんな』より引用

 

 

この本のおすすめポイント

  • 姉、夫の自殺を経験された加藤治子さんが、ご自分の口から語られるその時の事が胸に迫ってくる
  • 向田邦子さんの事が詳しく語られているし、加藤治子さんとの関係も語られている
  • 文学座創設当時の話が興味深い
  • 女優としてだけでなく、加藤治子さんの生い立ち、「ひとりのおんな」の人生が語られている

 

 

ウェルネスダイニング

 

 

 

 

 

心に残った点・役に立った点

 

ーじゃ、治子さんの実家のほうには、もう・・・。

治子 全部死に絶えてます。

ーでも、たとえば甥とか姪とかに至るまでいないんですか?

治子 ええ。みんな子供がいなかったから。

ーご兄弟は何人だったんですか。

治子 5人なんです。で、赤ちゃんのときに、私の上の兄がすぐ死んで、一番上の兄は、戦争で中国へ行って、嵐部隊とかで、非常な激戦地に行って、戦争が終わったときはまだ生きていたんですけどね、かろうじて上海の病院にたどりついて、そこで引き揚げの船を待っている間に、死んじゃったのね。長女は18のときに入水自殺したんです。私と、6つ違いの次女は後まで生きてて、年取ったら、私、一緒に暮らそうなんて思ってたんですけど、それを言わないうちに、62歳でクモ膜下出血で亡くなったの。

 

『ひとりのおんな』孤りにはなれているわ より引用

 

お姉さんが入水自殺された時の事、お母さんが亡くなられた時の事などが本文で語られているが、加藤治子さんは割と淡々と答えてらっしゃる。

お姉さんが、自殺なさる前に家によって机で長い事手紙を書いてからお母さんが泊っていけというのをどうしても帰らなきゃならないと帰ってしまったが、胸騒ぎを覚えてお母さんが引き出しを開けたら遺書が入っていたというところなど、読んでいても切なく悲しい。

 

そして、夫である加藤道夫さんの自殺を発見したところなどは、

とても詳しく覚えていらっしゃるのでとてもリアルで、

なおのこと加藤治子さんの悲しみが伝わってくるようだった。

 

ご主人が亡くなった時の顔は、

ベートーヴェンの胸像みたいでした。

怒りとか、悲しみとか、そういうのを全部内側に抑えつけたようなー。

でも、その顔のまわりが青白い強い光でいっぱいなんです。

きれいな青白い光なんです。

 

『ひとりのおんな』私を残していった人たち より引用

 

と表現されている。

 

自殺をなさったご主人の事は、

怒りとか悔しさを含めて今でも生きている気持ちだとおっしゃる。

 

捨てようとしても捨てきれるものではない、

そんなことも思った事もない、

重荷で座り込むわけにもいかない、

身体の一部みたいなものと語っていらっしゃる。

 

この加藤治子さんの気持ち、

簡単に語れることではないけど、

「ひとりのおんな」として愛した男性に対しての

生涯抱える思いに触れて、深い感動を覚えた。

 

 

この本を読んでいてわかるのは、

彼女がとても賢い方だということ。

 

言葉、考え、演劇や文学の知識など、

お母さん役を見慣れていたが、頭の良い方だったと今更ながらこの本で感じた。

素敵な女性だったんだなぁという思いを新たにした。

 

『ひとりのおんな』は、

第一章 孤りにはなれているわ

第二章 私を残していった人たち

というタイトルが最初の二章につけられているが、

そのタイトル通りのものを抱えながらあのお母さん役を演じられていたのだと思うと、お母さんの表情の中にごくたまに垣間見える、女性の部分だとか何かわからない深淵なものだとかの理由がわかるような気がした(あくまでも気がしただけであるが)

 

やっぱり、私は彼女のますますのファンになった。

 

興味を持たれた方は、是非どうぞ。