「これ、いい本だ!」
この本を読んでいる途中の主人が言ったのです。
読了して納得。
「本当にこれ、いい本だ!」
でした。
実はこの本が手元にあったけど、読み始められなかったのです。
物凄く落ち込んでいて、絶望の中にいた時は何故か読めなかった。
ようやく読み始められたのは、ある事がきっかけでまた頑張る気になった時。
辛い時は辛い話を読んで同化して落ち着く時もありますが、その時は駄目でした。
なので、私がこの本をおすすめした人は↓
この本をお勧めしたい人
- 「うつっぽい」とか「ちょっとうつ」とかではなく、リアルなうつの体験を読みたい人
- 絶望から立ち直りつつある人(絶望のさなかの人はもうすこしエネルギーが戻ってからの方が読みやすいかも)
- 不眠や動悸、不安・緊張など自律神経に不調をきたして不安な人(この本を読んだ時の私がこの状態でした)
- うつ病の方が身内や友人などにいる人
- うつ病の事をもっと知りたい人
- 将棋が好きな人
- 以前から先崎学氏の文章が好きな人(私もそうでした)
この本の本当にすばらしい点は、
うつっぽい気分とか落ち込みとかではなく、うつ(それも一目見て重度とわかるくらいの)の体験を初めから完治するまでを書いている点。
作者紹介
先崎学(せんざき まなぶ)
1970年、青森県生まれ。
1981年、小学5年のときに米長邦雄永世棋聖門下で奨励会入会。
1987年四段になりプロデビュー。
1991年、第40回NHK杯戦で同い年の羽生善治(現竜王)を準決勝で破り棋戦初優勝。棋戦優勝2回。
A級在位二期。2014年九段に。
2017年7月にうつ病を発症し、慶応大学病院に入院。8月に日本将棋連盟を通して休場を発表した。そして1年間の闘病を経て2018年6月、順位戦で復帰を果たす。本書は回復までの日々を本人が自ら大胆に綴った手記である。
「うつ病九段」から引用
この本のおすすめポイント
読み物として本当に面白い
うつ病の人本を読んで「面白かった」とは言いにくい気もしますが。
でも、本として読み物として本当に面白い。
読み始めると、ぐいぐいこちらを引っ張る牽引力があり、読むのが止まらなくなる。
私は20前ほど前に、あるギャンブル関係の雑誌で先崎氏の連載を読んでおり、それを非常に楽しみにしていた。
棋士というと雲の上の存在で、私などの凡人にしてみると頭の中がどうなっているのか、浮世離れして感じるほどの頭脳の差を感じる存在。
それが、気軽に雲の上からこちらに降りてきてくれたように感じる文章と内容だったのです。
この本は、やはり数々の連載を持ってきた彼ならではの、書きなれた人の文章。
かなり辛い内容だし、読んでいるこちらも辛くなる出来事も書いてあります。
それでも、ページをめくる手が止まらない。
普段テレビで見る将棋の世界とは違う将棋の世界がわかる
棋界は弱肉強食の世界である。
「うつ病九段」から引用
病気や齢を重ねて勝てなくなった棋士には、人が寄ってこなくなる(マスコミだけではなく一部の棋士達も)。
そのあたりの経験がリアルに描かれていて、読んでいてなんとも切ない。
うつ病になった時から回復までの経過がリアルに書いてある
うつ病になってもまだやれる!と思う当事者と、自殺予防のために即刻入院の手続きをとる精神科のお兄さんと奥様のギャップがリアルだし、読んでいる方も勉強になります。
どんな言葉が嬉しかったかなど、うつ病になった人の心情が正直に書いてある
だが、そのひと事は物凄く嬉しかった。その嬉しさは高浜さんに「光栄です」といわれた時に抱いた感情に似ていた。うつの人間は自分に存在価値があるというようなことをいわれるのが一番嬉しいのだ。
「うつ病九段」から引用
この辺りは、胸に来るとともにどういった言葉をかければ良いかの勉強にもなりました。
うつの方や今辛いかたの希望になる
精神科医のお兄さんからの短いライン「必ず治ります」に、先崎氏は励まされます。
そして、散歩などの努力で少しずつ良くなっていく様子が読み進めると手に取るようにわかるんですね。
それが、読んでいるこちらの希望にもつながっていくような感じがありました。
うつは「心の病気」ではなく「脳の病気」というのが理解できる
だから、太陽の陽をあびる散歩が非常に有効、重症だったのでとにもかくにも自殺しないための時間稼ぎとして入院という処置を取った事、そして「うつ病は必ず治る病気」という精神科のお兄さんの力強い言葉。
心に残った点
- 先崎氏の辛さがストレートに伝わってくるので胸が痛い
勇気を振り絞って高尾山に登った時。
頂上に着くと周りはカップルや家族連れなど幸せそうな人でいっぱいで、あまりに自分が惨めで少し泣くシーン。
正月「指し初め式」でのカメラを構えた記者からの扱い。
うつ病では無くても、生きているとこういう惨めな気持ちになる事は誰しも(?)あるわけで。
惨めな気持ちというのは、辛いものです、本当に。
だから、うつ病の時ならなおさら辛いであろうことが容易に想像できるのですよ。
そういった胸が痛くなる事もとても共感できました。
うつ病が最悪の時期の人間は、他人に感謝できない
すこしよくなってはじめて他人の気持ちを忖度する感情が芽生えてきたとの事。
自分の心が冷えきっていて、だから他人の温かさに気がつくことができない。
「うつ病九段」から引用
そうした「心が完全に冷え切っている状態」から良くなって行って、血が通うように先崎氏の心も温まっていくのがわかるのが、嬉しく私も心が温かくなるのを感じました。
「負ける事より将棋が弱くなる事が辛い」
棋士の性(さが)。
あるいは棋士の業(ごう)。
…をとても強く感じて、この部分は自分でもよく説明できない感動を覚えました。
182ページからは圧巻(心の中でスタンディングオベーション)
東北の障害者施設へ行った時、筋ジストロフィー患者の施設に行った時の事。
将棋は、弱者、マイノリティーのためにあるゲームだと信じて生きてきたこと。
うつ病に対する偏見について。
先崎氏がイジメや周りの不理解(将棋のプロになるのはヤクザと同じ事のように思われていたこと)などを、将棋の世界に入ることによって救われていった事。
将棋の腕一本で人生を切り拓いてきた事、うつ病も将棋で切り抜けた事。
この本のフィナーレというべき部分だが、もう圧巻であった。
心の底から温かいもの、ぐるぐると渦をまくような感動が湧き上がってきた。
心の中で、拍手(それもスタンディングオベーション)を送っていた。
お勧めです!